via NADA NEWS · NADA NEWS編集部著
「国債のトークン化」がゴールではない──Secured Financeが見る「金融市場の配管」の進化とは
Progmat(プログマ)が8日に発表した「トークン化国債・オンチェーンレポ ワーキング・グループ(WG)」には、3メガバンクや信託銀行、証券会社、アセットマネジメント会社などの大手金融機関に加え、ブロックチェーン関連企業も参加する。
そのなかで、レンディングプロトコル領域の参加予定組織として名を連ねるのが、DeFi(分散型金融)の固定金利レンディングプロトコルを開発するSecured Finance(セキュアード・ファイナンス)だ。
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同社は同日、同WGへの参加を発表し、リリースの中で「オンチェーン・レンディング、担保管理、時価評価、清算・決済、取引ライフサイクル設計に関する知見を提供し、機関投資家向けオンチェーン・レポ市場の検討に貢献」していくと述べている。
だが一方で、同社創業者兼CEOの菊池マサカズ氏は、NADA NEWSの取材に対して、今回のWGは「単に既存のレポ取引をブロックチェーンに載せる話ではない」と述べた。

「国債などの証券を扱う仕組みと、資金決済の仕組みを同じ金融プロトコル上で接続し、担保管理・時価評価・清算・決済までを一体的に扱える市場インフラを作る話だと捉えています」
つまり、目指しているのは、証券と資金の決済を含む、金融市場インフラ全体のオンチェーン化だ。
本質は「国債のトークン化」ではない
WGでは、日本国債に関する権利をトークン化し、決済にステーブルコインを用いたオンチェーン・レポ市場の構築を検討する。
レポ取引は、国債などを担保に短期資金を貸し借りする市場だ。世界のレポ市場は2024年末時点で約16兆ドル(約2480兆円、1ドル=155円換算)規模に達し、日本市場はその約1割を占める。そして、日本の既存インフラは、すでに高度に整備されている。
Secured Financeも「日銀ネットなどを通じて国債決済と資金決済をDVPで処理できる、高い信頼性の清算・決済インフラが存在している」と指摘する。
ただし、この高度なインフラにアクセスできるのは主に金融機関に限られる。さらに、既存金融インフラでは、国債などの証券を管理するシステムと、資金決済を行うシステムが分かれていることが多く、資産、通貨、国をまたいだ取引を一体的に扱うことは簡単ではない。
「オンチェーン化の価値はここにあります。トークン化された証券と、ステーブルコインなどのデジタル通貨を、同一または相互接続されたブロックチェーン基盤上で扱うことで、担保差入、貸借、時価評価、清算、返済、担保受戻までの取引ライフサイクルを、よりプログラマブルに、透明性高く、リアルタイムに近い形で管理できます」
同社は「国債をトークンにすること自体がゴールではない」と強調する。
「国債という高品質な担保を起点に、資金取引のライフサイクル全体をプロトコル化することが本質だと考えています」
なぜステーブルコインが必要なのか
今回の構想では、決済手段としてステーブルコインが重要な役割を果たす。
Secured Financeによると、担保となる証券だけをオンチェーン化しても、資金決済がオフチェーンに残る場合、決済や返済、担保解除などが別システムに分断され、オンチェーン化の効果は限定的になる。
そのため、トークン化国債とステーブルコインを同じプロトコル上で扱うことが重要になる。
「レポやレンディングにおける資金提供、担保差入、時価評価、返済、担保受戻といった一連の取引ライフサイクルを、同じプロトコル上で管理しやすくなります」
さらに同社は、ステーブルコインの「クロスボーダー性」にも注目する。
たとえば、ステーブルコインの対抗軸として語られることもある「トークン化預金」は、重要な選択肢である一方、その性質や制度上、利用範囲が限定される可能性がある。一方、ステーブルコインはポータビリティを高めやすく、ドル建てステーブルコインなど海外のデジタル通貨とも接続しやすい。
「海外投資家が日本の国債レポ市場や短期金融市場に流動性を提供するための入口になり得ます」
これは、日本市場に外部流動性を呼び込むという意味でも重要だという。
DeFiは「投機」ではなく金融プロトコルへ
今回、WGはレンディングプロトコル、広く言えばDeFi(分散型金融)の活用を考えている。だがDeFiは、まだネガティブなイメージで捉えられることもある。
Secured Financeは、DeFiと機関投資家金融は「両立できる」と考えている。ただし、それは従来の高利回りで、トークンインセンティブ中心のリテール向けDeFiとは異なる。
「私たちが考えているのは、DeFiをそのまま金融機関に持ち込むことではありません。むしろ、ブロックチェーン上で金融取引を実行・管理するための、プロトコル型のオンチェーン金融インフラを作ることです」
同社は、レポ、証券貸借、為替、金利デリバティブなど、機関投資家市場の多くは、中央集権的な取引所ではなく、相対取引を前提に発展してきたと指摘する。
その意味で、「分散型」「プロトコル型」の市場構造は、機関投資家金融と必ずしも相反するものではないとの見方だ。
重要なのは、リスク管理やコンプライアンス、参加者管理を前提に設計された「institution-grade」のオンチェーン市場を構築できるかどうかだとしている。
「金融市場の配管そのもの」をどう再設計するか
米国では、米国債のトークン化やオンチェーン・レポ市場の実証が先行している。Secured Financeは、日本の現状について「単純に遅れているとは見ていない」と話す。
背景には、日本で進むステーブルコインの制度整備や、セキュリティ・トークン市場の拡大がある。
「今後の競争ポイントは、単に国債をトークン化することではありません。トークン化国債、ステーブルコイン、レンディングプロトコル、法務・会計・税務・実務・リスク管理を、いかに一体の市場インフラとして設計できるかです」
そして同社は、今回のWGの本質を、こう表現する。
「国債レポ市場は、金融市場の中核にある資金取引です。ここをオンチェーン化するというのは、一つの取引をデジタル化する話ではなく、金融市場の配管そのものを、よりオープンで、プログラマブルで、グローバルに接続可能なインフラへ進化させていく話だと考えています」
