FRB簡易版マスターアカウント案を公表、Qivalisは37行に拡大、SECピアース委員も退任
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暗号資産ニュース
米連邦準備制度理事会(FRB)は5月20日、適格金融機関が支払いの清算・決済目的に限定して利用できる新たな「ペイメントアカウント」、いわゆる簡易版マスターアカウントに関する提案を公表し、60日間の意見募集を開始した。対象口座は日中信用供与や連銀貸出制度(ディスカウントウィンドウ)の利用、準備預金残高への付利を認めない設計で、決済リスクと監督負担を抑えつつ決済網への直接アクセスを認可する枠組みとなる。2025年12月に公開されたRFI段階のプロトタイプを土台に、機関別の予想決済活動量に応じた期末残高上限の引き上げなどが盛り込まれた。FRBは制度確定までの間、各地区連銀に既存申請の判断を一時停止するよう指示している。
今回の提案は、Donald Trump米大統領が5月19日に署名した大統領令の翌日に公表された点が市場の注目を集めている。同大統領令は、FRBのマスターアカウントへの直接アクセスを暗号資産企業やフィンテック企業に拡大する余地について、FRBに政策の見直しを正式に指示する内容だ。規制専門家は、ホワイトハウスが決済インフラへの参入障壁を引き下げる方向で明確なシグナルを発したと評価している。一方でMichael Barrを含む一部のFRB理事は、不正金融への悪用を防ぐ十分な安全措置を欠くとして簡易版アカウント案に反対票を投じており、金融安定性とイノベーション促進のバランスを巡る議論は依然として割れている。
欧州ではユーロ建てステーブルコイン構想「Qivalis」の参加銀行が新たに25行追加され、15カ国37行に拡大したことが20日に発表された。当初の創設メンバーにはBNPパリバやINGなど12行が名を連ねていたが、今回アイルランド銀行やルクセンブルク国有のSpuerkeessなども加わり、欧州横断の決済インフラとして実装範囲が一気に広がる形となった。Qivalisは規制下で1:1の準備資産に裏付けされたユーロをブロックチェーン上でネイティブ発行する計画で、2026年下半期のローンチを目指している。米ドル建てステーブルコインが圧倒的シェアを握る分野で、ユーロ建ての主権的代替案を示す動きとして注目される。

制度設計の背景には、暗号資産業界が長年にわたり申請を続けてきたマスターアカウントへのアクセス問題がある。2026年3月にはKrakenが、初回申請から5年を経て暗号資産企業として初めて制限付きのFedマスターアカウントを取得し、業界の風向きが変わる契機となった。公開情報によれば、Ripple、Anchorage Digital、送金大手Wiseも同様のアクセスを目指している。一方、伝統的銀行業界は、相対的に監督水準が低いビットコイン関連企業を含むフィンテック勢への決済網開放が、運営リスクや流動性リスクを誘発しかねないとの懸念を継続的に表明してきた。預金信託会社の認可取得を進める企業群が、今回の大統領令の最大の受益者となる可能性が高い。
米証券取引委員会(SEC)でも体制変化が進んでいる。長年「Crypto Mom」として知られたHester Peirce委員が、11月よりRegent University School of Lawの准教授に就任することが明らかになった。Peirce氏は2018年からSECで2期にわたり務め、暗号資産タスクフォースを主導してきた中心人物で、業界寄りの規制スタンスとDeFi領域への寛容な姿勢で知られる。退任後、SECに残る共和党側の委員はMark UyedaとPaul Atkins委員長の2名のみとなり、デジタル資産市場構造法案の審議が大詰めを迎える中、人事の空白が政策実行の連続性に与える影響が懸念されている。

政治面では、暗号資産業界主導の政治活動委員会(PAC)Fairshakeが、5月19日に行われた予備選で支援した6人の候補全員が勝利したと発表した。Coinbase、Andreessen Horowitz、Rippleなどが主要出資者となるFairshakeは、本選を見据えて2,000万ドル超の資金を投入してきた。ただし共和党側の勝利候補5名は全員Trump大統領の支持表明も同時に得ており、暗号資産ロビーの影響力と大統領の政治力のどちらが結果を左右したのかについては、専門家の間で評価が分かれている。来年の中間選挙に向けて、業界の政治支出は今後さらに拡大する見込みだ。
今週示された一連の動きは、規制当局がデジタル資産企業に対する決済インフラと監督枠組みの再設計を本格化させていることを示している。FRBの簡易版アカウント、欧州のユーロステーブルコイン連合、SECの人事変動、業界PACの政治的影響力──いずれも個別の話題に見えて、共通するテーマは「制度的取り込み」だ。ビットコインを含む暗号資産市場は、過去サイクルにおける反規制的な物語から、規制と協調しながら既存金融インフラに組み込まれていく局面へと移行しつつある。次の60日間の意見募集期間と各国議会の動向が、来期の業界地図を大きく左右することになるだろう。